2006年 12月 31日

国家主権と自決 -国際法の視点から-

越路正巳編「21世紀の主権、人権および民族自決権 -21世紀の民族と国家 第2巻-」(筆者:内田久司)より:

国連憲章のもとで自決は「人民自決」と呼称されている。ここに「人民」とは民族や国家も含み、したがって「民族自決」よりも広い概念として使われているが、その内容は必ずしも明らかではない。その自決には外的自決と内的自決があるといわれる。前者は人民が国際社会における地位を自由に決定する権利であり、後者は人民がその政治的地位を決定し且つ経済的、社会的および文化的発展を追求する権利(国内問題不干渉原則と関連)である。

自決権は冷戦期には植民地独立という外的自決を中心に展開したが、冷戦後は民主主義、人権および法の支配を基調とした内的自決がクローズアップされている。…

(1)外的自決
第二次大戦後における外的自決の典型は植民地の独立であるが、現在非植民地化がほぼ達成された状況のもとで、…

(2)内的自決
国際人権規約は、「すべての人民は、自決の権利を有する。この権利に基づき、すべての人民は、その政治的地位を自由に決定し並びにその経済的、社会的及び文化的発表を自由に追求する」と規定している(AB 1条1項)。
この条項は外的および内的自決を含み、主としては植民地住民に関わるが、すべての人民に普遍的に適用される権利と解する余地もある。友好関係原則宣言も同様の規定をもつが、… しかし、友好関係原則宣言ですべての国の内的自決に関するものはむしろ次の規定である。いわく、「上記の各項のいずれも、上に規定された人民の同権と自決の原則に従って行動し、それゆえ人種、信条又は皮膚の色による差別なくその領域に属するすべての人民を代表する政府を有する主権独立国家の領土保全又は政治的統一を全部又は一部分割しあるいは毀損するいかなる行動をも、承認し又は奨励するものと解釈されてはならない」。この規定は分り難いが、…要するに無差別の基礎の上に、「すべての人民を代表する政府」を有する主権国の領土保全を期するという趣旨である。

そうしたなかで、規約人権委員会はB規約第40条に基づく政府報告、とくに内的自決とからむ第22条(結社の自由)および第25条(選挙)に関する政府報告の審議に際し、当初は社会主義国や途上国の一党独裁制も代表民主主義と両立するものと見なされてきた。しかし、冷戦後は複数政党のなかから代表を選ぶ真に民主主義的な意思決定のプロセスを要求するようになっている。…

(3)国内における分離
内的自決と外的自決が交錯する局面として、主権国内において一部の人民による分離独立が認められるか、という問題がある。これを無条件に認めると当該国の国民的同一性や領土保全を害することになる。そこで、友好関係原則は一定の条件のもとに歯どめをかけていることは前述した。同項の準備作業からすれば、「人種・信条又は皮膚の色による差別なしにその地域に属する人民全体を代表する政府を有する」場合には内的自決が認められ、それを通じて領土保全をはかることを趣旨としており、同宣言の前文が「国家又は国の国民的統一及び領土保全の一部若しくは全部を毀損することを目的・・・・・・としたいかなる企図も、憲章の目的及び原則と両立しないことを確信し」と述べていることもそのことを表明している。しかし、その規定からすれば、例えば人種差別に基づきすべての人民を代表しない政府が大規模重大な人権侵害を行う場合には、分離独立を許容するものと反対解釈する余地もないではない。冷戦後は人権尊重を基礎にそのような学説が有力になりつつある.

分離を認めた実際の事例は冷戦期にはほとんどない。国連はコンゴ動乱におけるカタンガ州やナイジェリア内戦におけるビアフラの独立を認めなかった。わずかに東パキスタン(現バングラデシュ)の分離独立が注目される程度である。

ソ連・ユーゴの解体は連邦に関する点で共通しているが、それぞれの憲法が脱退を認めていたことは、それだけでは国際法上の理由にはならない。旧ソ連の有力国際法学者ミュレルソン(現ロンドン大学教授)は、ソ連が自由意志に基づく連邦ではなかったこと、ユーゴではセルビアの強圧的態虜に問題があったことなどから、両者に共通して認められる植民地主義的性格を指摘した上で、友好関係原則宣言第7段をも援用しながらこの間の事情を説明している。しかし、ソ連の場合には、バルト三国はともかく、他の構成国は協定に基づき分離独立したのであり、格別の説明はいらない。チェコスロヴァキアもそうである。ユーゴの場合には他の構成国の分離を認めないまま、武力行使にでたが、スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルッェコヴィナ、マケドニアが事実上独立し、「分離権の問題」にはふれることなく国連やEC諸国が承認したということであり、これはいわば革命的な事実を承認の問題として処理したといえよう。

(4)自決と武力行使
体制選択をめぐる問題は冷戦下において米ソ両超大国によって抑制され、そうしたなかで革命ないし反革命の事態が発生すると、両超大国の軍事介入を招いた。…法律論としては集団的自衛権の他、正統政府の要請を正当化理由として援用した。一国で内乱が発生した場合、第三国が叛徒を援助することは国内問題への干渉となって違法だが、正統政府の要請の下に介入するのは協力(cooperation)または招請による干渉(intervention on invitation)として合法だとする一般国際法上の法理によるものである。…いずれにせよ、米ソ両超大国は衛星国の革命ないし反革命を前にして、体制擁護的にこの法理を援用してきたということができる。しかし、内乱の規模や介入の程度如何によっては当該人民の自決権行使を封ずることになりかねない。そこで、内乱が国内騒動にとどまる場合はともかく、内戦にまで発展した場合の介入は自決権の侵害になるとして違法説があり、他方で双方の場合を通じこの一般的違法説があるが、この問題は自決権との場合ばかりでなく、国連憲章の武力行使禁止条項(2条4項)とも関連し、同条項(とくに国連の目的と両立性)の観点から見れば、後者の方が妥当な説であろう。しかし、前者も根強く主張されている。

…友好関係原則宣言によれば、「すべての国家は……人民から自決権と自由及び独立を奪う、いかなる強制行動も慎しむ義務を有する」。これは、自決権をもつ人民に対する強制行動はもはや国内問題ではないことを意味する。また、続けて「人民は、自決権行使の過程において、このような強制的な行動に対する反対行動及び抵抗において、国際連合憲章の目的及び原則に従って支持を求めかつ受ける権利を有する」。この点で、東側や南側の国では自決権実現のための武力行使は自衛権の行使であり、第三国による援助は集団的自衛権の行使とみる見解もあった。しかし、同じ宣言が「国際連合憲章の目的及び原則」に従ってと規定している点からみても、第三国による軍事力による援助は認められないであろう。同様の対立は武器を含む物質的援助についてもあり、東側や南側はこれを肯定するのに対し、西側は否定し、外交的、人道的援助にとどまるとしてきた。
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by satotak | 2006-12-31 07:01 | 民族・国家


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