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テュルク&モンゴル

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2007年 04月 13日

マナス第一部

若松 寛訳「マナス 少年篇/青年篇/壮年篇」(東洋文庫 2001-05)より:

《少年篇》
第1章 不思議な夢
老人の嘆き〉老妻の見た夢〉ジャクィプの見た夢〉若妻の見た夢〉失踪した少年の捜索〉夢判断〉

第2章 勇士誕生
ジャクィプの兄弟たち〉チュウィルディの懐妊〉難産〉ジャクィプ外出〉男子誕生〉“スユンチ(吉報)”〉盛大な祝宴〉マナスと命名〉

第3章 オシュプル老のもとでマナスを鍛錬
放牧見習い〉四十チルテンの出現〉カルマクの老人とけんか〉サラマトの四人の子とけんか〉オシュプル音を上げる〉

第4章 カルマクの乱暴者どもを制裁
帰途でのできごと〉気丈な母〉ジャクィプ、救援にのりだす〉母と子、無事家に帰る〉

第5章 アルタイのカルマク勢を撃退
カルマク人の内輪もめ〉アルタイのカルマク勢を撃退〉凱旋〉

第6章 エセン・ハーンの密偵団を制裁
皇宮取りゲーム〉エセン・ハーンのたくらみ〉隊商とマナスのけんか〉

第7章 ネズカラ討伐
バイと二人の息子〉バイの受難〉バイ、ジャクィプと邂逅〉ネズカラ、ジャイサンバイを攻撃〉キルギス軍迎撃〉マングル人、キルギス人に服属〉

第8章 十一人の密偵団に仕置き
ジャクィプ、虎口を逃れる〉鳩首凝議〉怪物退治〉密偵どもに鉄拳制裁〉

第9章 オルクン川の戦い
若者グループのかしらに選ばれる〉オルクン川の岸辺に到達〉エセン・ハーンの調査隊〉クィタイ軍撃破〉

第10章 ハーンに推戴
ジャクィプの提案〉

《青年篇》
第1章 テケス・ハーンの魔人部隊撃滅
長老会議〉出陣〉テケス・ハーンの驚き〉魔法使いクヤス、魔兵を配置〉バカイ、魔兵を看破〉魔兵部隊の全滅〉テケスの後継者選出〉テイイシュの祝賀会〉マナス、一騎打ちに出場〉祝賀会は続く〉更なる進軍〉

第2章 オルゴ・ハーン軍との決戦
オルゴ・ハーンの驚き〉オルゴ・ハーン、迎撃体制を固める〉巨漢アタンの惨死〉合戦始まる〉激戦のあと〉オルゴ・ハーン妃、命乞いに行く〉

第3章 アクンベシム征伐
長老会議〉部隊を分けて行軍〉アクンベシム、防戦準備に大わらわ〉マナス、バカイ二手に分かれる〉魔法使いボーン現る〉バカイ隊の行動〉魔法使いボーンの最後〉マナス軍進軍〉シャムィン・シャー注進〉アクンベシム、防戦体制を取る〉合戦の火蓋切らる〉アクンベシムの最期〉

第4章 父祖の故地へ移動開始
長老会議〉移動中のできごと〉

第5章 アローケ・ハーンに向けて進撃
マナス、狩りに興じる〉アローケ・ハーン登場〉アローケの使者来る〉アローケ出陣の知らせ〉マナス出陣〉アローケの王宮〉マナス王宮に突入〉マナス、猛獣の群の中に入る〉アローケ降伏〉

第6章 ショールク・ハーンとの抗争
ショールク・ハーン出陣〉美女アクィライの諌め〉合戦の火蓋切らる〉ショールク、和睦を懇願〉美女たちの婿選び〉アローケの後日談〉

第7章 アルマムベトとの出会い
マナスの見た夢〉マナス、狩りに出る〉アルマムベトの悲哀〉アルマムベトを発見〉アルマムベト、マナスの営地に来る〉アルマムベト、マナスにまみえる〉歓迎の競馬〉

第8章 マナスとアルマムベトの盟約
義兄弟の契り〉マナス、自分の結婚を決意〉

第9章 マナスのために嫁探し
嫁の条件〉ジャクィプ嫁探しの旅に出る〉ジャクィプ、娘をのぞき見る〉ジャクィプ、王宮に乗り込む〉アテミル、難題を案出〉婚約成る〉

第10章 マナスの求婚
マナスとアルマムベトの見た夢〉ジャクィプの帰郷談〉マナス、ケイイプへ行く〉アテミルのマナス迎接〉マナスとサニラビイガのいさかい〉怒りのマナス、軍勢をアテミルに向ける〉冷遇にマナス怒る〉マナス、アテミル膺懲の戦を決意〉サニラビイガ、マナスに嫁ぐことを決意〉

第11章 マナス、アルマムベト、四十勇士の結婚
花嫁達のテント〉婿選びの競馬〉婿と嫁の二度のテスト〉アルーケ翻心〉華燭の典〉

《壮年篇》
第1章 六ハーンの謀反(上)
六ハーンの謀議〉マナスに遣使〉使者を威圧〉祝宴を開く〉使者帰還〉

第2章 六ハーンの謀反(下)
トュシトュク叱咤激励〉六ハーン進発〉マナス、四十勇士を招集〉六ハーン到着〉マナス、六ハーンに接見〉

第3章 大遠征の準備
バカイを遠征軍の総司令官に任命〉アルマムベトを全軍の先導役に任命〉従軍を望まぬ者に帰郷を許す〉

第4章 大遠征の途につく
マナス、部隊を視察〉部隊進発〉アルマムベトの提案〉カヌィケイからの選別〉カヌィケイの嘆き〉マナスと四十勇士、部隊に戻る〉アルマムベト、軍紀に不満〉アルマムベトを総司令官に選ぶ〉

第5章 ベージンへ向けて進発
全軍の点呼をとる〉アルマムベト、全軍に訓示〉強行軍にクィルグィル老怒る〉クィルグィル、マナスに抗議〉クィルグィル老、十人隊に戻る〉宿営の令下る〉アルマムベト、オルクン川を渡って偵察〉アルマムベト、天気を変える〉全軍オルクン川を渡る〉エリメで越冬〉全軍の点呼と取る〉アルマムベトとスィルガクを斥候に選ぶ〉

第6章 アルマムベトとチュバクのいさかい
チュバクの怒り〉チュバク、アルマムベトの懲らしめを決意〉バカイ、チュバクの説得に行く〉マナス、チュバク説得に加わる〉マナスとチュバク、アルマムベトと合う〉チュバクとアルマムベトの和解〉

第7章 一つ目の巨人マケル退治
サヤス山からベージン観察〉一つ目の巨人マケル出現〉チュバク、アルマムベト、一つ目の巨人マケルと闘う〉マケルの首を持ち帰る〉

第8章 クィタイから馬群奪取
ベージンへ偵察に行く〉クィタイ陣営鳩首擬議〉都督チャバラ討たれる〉馬飼い頭カラグル、馬群を移す〉クィタイ陣営、防戦準備に乗り出す〉変装したアルマムベトとスィルガク、クィタイに潜入〉アルマムベト、故郷を見て懐旧にふける〉アルマムベト、馬飼い頭カラグルをだます〉二勇士、馬群を連れ出す〉カラグル、盗まれた馬群を追跡〉両勇士、背後から迫るクィタイ軍と戦う〉コングルバイ、アルマムベトに傷を負わさる〉

第9章 キルギス軍奮戦
マナス、熟睡から目覚める〉スィルガク、バカイに救援を求めに走る。三勇士奮戦〉バカイ、大軍を率いて出動〉キョル・ケチュー渡河点でコングルバイ、マナスを襲う〉

第10章 凱旋
キルギス全軍突撃〉コングルバイ、マナスによって負傷〉キルギス軍、カスパンを包囲〉重傷のコングルバイ抗戦の非を説く〉コングルバイ、終戦をエセン・ハーンに嘆願〉和平成る。キルギス軍凱旋の途につく〉

〈和平成る。キルギス軍凱旋の途につく〉
クィタイ人からコングルバイ、クィルムス・シャーの〔子〕ムラディル、〔帽子に〕朱房をつけたネズカラ、カルマク人のウシャン、奴らが命と引き替えに財物を出すことを合意した。カンガイ人からオロングもその場にいたな。軍司令官コングルバイが奴ら全員をそばに集めた。黒いたてがみボローンチュ、カトカランの〔娘〕サイカル、いちいち名前を挙げるんですかい。ソローンのアローケ、猪のような気性の勇士ジョロイ、トクシュケルの〔子〕ボズケルティク、九十二歳の長寿を保つ、ソロボの〔子〕ソーロンドュク、奴らが自分の命を心配して、偶像の前に額ずぎ、財物を奉納することを誓った。

奴らは九千頭の黒いひとこぶ駱駝を用意して、ひとこぶ駱駝の背に金貨を積んだ。また、
九千頭の赤いひとこぶ駱駝を用意して、赤いひとこぶ駱駝に高価な金細工を積んだ。駱駝に高々と積まれた荷の中には金塊もある。これらのすべての荷の上には絹のロープが掛けられた。さらに白銀を積んだ三万頭の駱駝が引き出された。白銀を積んだ駱駝を引いて行ったときのその光景を見てくだされ。エメラルド・ダイヤ・ルビーが二千頭の駱駝に積まれた。贈り物として進呈するために、今いるすべての馬の中から、互いによく似た黒馬九千頭が選り抜かれて、それらを達人どもが調教した。さらに九千頭の赤毛馬と九千頭の栗毛馬を用意した。どいつも姿が優雅で、走れば駿足だ。さらにまたすらりとして美しい大型の鹿毛馬九千頭も用意して、そいつらが土埃を山のように巻き上げた。ほかにも九千頭の葦毛馬も用意した。各村落から集めさせた贈り物用の馬群は十万頭に達した。

奴らは各自の町から娘たちを探し出させた。その黒髪は川獺(かわうそ)のよう、鏡の前で髪を櫛けずらせて、真珠のような歯、反った眉、鴨のような首、小さい上品な頭、丈は中背、歳は十五、細くて柔らかい指、太いお下げ、黒い干し葡萄や食べ物を口にすると、白い喉を通してそれらが透けて見える。そういう美しい娘を九千人引き連れ、工匠の中でも抜きん出た名人たちも連れて、贈り物を届けに、アンディジャンから逃げたアローケ老人をはじめ、みんなが来た。

昔からこういうことばがある、「槍を刺すなら折れるほどに刺せ。敵であろうとひとたび倒れたら、辱しめるな、心を安んじさせてやれ」と。まさにその通りに、バカイ翁とクィルグィル老(チャル)が〔マナス・〕バートゥルのもとへ行って、バカイ翁が言った。
「贈り物を受け取ってやれ、勇者マナスよ。異教徒であろうと、ハーンを戴く人民じゃ。昔から物をたんと持っておる人民じゃよ。クィタイ人であろうと、膨大な人民じゃ。握力の強い我が猛者よ、わしの言うことを聞き入れよ。奴らはついに恐れ入った。今はもう放っといてやれ、バートゥルよ」
賢いバカイがことばを継いだ。
「娘たちを贈り物に差し出したからには、〔クィタイ人を〕虐殺したらよろしくない。〔キルギス人の〕六ハーンを集めて、彼らと協議したらどうじゃな。相談しようぞ。あのクィタイ人どもを苦しませぬよう返事をしてやろうぞ」

獅子マナス・バートゥルはバカイの言った助言を受け入れた。腕の立つ匠をもらう者、望んで娘をもらう者、ひとこぶ駱駝をもらう老、人それぞれであった。食うや食わずだった者は金銀をもらい、〔みなが〕数えきれぬ家畜をもらった。クィタイ人とキルギス人が和睦したのち、アローケらはそれぞれの故郷へ散って行った。
カカンでは七十の城門を備える都市を七つ破壊して占領したという。クィタイ人の地へ来て、キルギス人が殺戮をやったという。十二か月が経って、一年と一月になったとき、彼らが撤退したという。短かからぬ、長い道のりを通って、ベージンから出たおびただしい〔キルギス人の〕軍勢が郷里へ帰ったという。

by satotak | 2007-04-13 17:40 | キルギス


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